まず、令和6年能登半島地震で被害を受けた方に対しましては、心よりお悔やみ申し上げますとともに、被災地の一刻も早い復興をお祈り申し上げます。
ここでは、国税の納税緩和制度について分かりやすく解説します。国税の納税関係パンフレットは手続きなどが最終的に「税務署にお問い合わせください」となっていることが多く、一見して何を、いつまでに、どうするのかが記載されていないものが多くあると思います。
おそらくこれは①被災状況等経済的損失の程度が個々の状況によって異なるため、一律に制度を適用することが困難な点②税務当局以外の者による誤った制度周知が行われた場合に延滞税や適用機会の損失など納税者に経済的負担を強いる可能性があり、さらにはその責任の所在があいまいになる点が挙げられるからだと思います(個人的見解です)。
この制度は事態が落ち着いてからの手続きでも十分間に合います。この記事を見た被災者の方は自分の心が落ち着いてからでいいので、これから紹介する納税の猶予制度の要件に当てはまる場合には、是非制度の利用をご検討ください。
納税の猶予とは
自然災害の影響で納付が困難になった場合には、一定の条件のもとに国税の納税の猶予を受けることができる場合があります。
納税の猶予とは簡単に言えば、震災等の影響により期限内一括納付ができない場合には、納期限を経過しても納付を一定期間待ちます(猶予します)ということ。
制度の利用ができた場合には、納付が遅れたことによるペナルティーは無くなります(延滞税、滞納処分のリスク等)。また、通常滞納していた場合には納税証明書その3が発行できませんが、災害による納税の猶予制度を利用することで納税証明書を発行することができるようになります。
納税の猶予の中には①災害による納税の猶予(通46①)と通常の納税の猶予(通46②)があるが、通常の納税の猶予は延滞税が一部しか免除されないことから、被災された場合には下記に説明する災害の納税の猶予(延滞税全額免除)に該当するかをまず検討してほしい。
災害による納税の猶予通(通46①)
第四十六条 税務署長は、震災、風水害、落雷、火災その他これらに類する災害により納税者がその財産につき相当な損失を受けた場合において、その者がその損失を受けた日以後一年以内に納付すべき国税で次に掲げるものがあるときは、政令で定めるところにより、その災害のやんだ日から二月以内にされたその者の申請に基づき、その納期限(納税の告知がされていない源泉徴収等による国税については、その法定納期限)から一年以内の期間(第三号に掲げる国税については、政令で定める期間)を限り、その国税の全部又は一部の納税を猶予することができる。 一 次に掲げる国税の区分に応じ、それぞれ次に定める日以前に納税義務の成立した国税(消費税及び政令で定めるものを除く。)で、納期限(納税の告知がされていない源泉徴収等による国税については、その法定納期限)がその損失を受けた日以後に到来するもののうち、その申請の日以前に納付すべき税額の確定したもの イ 源泉徴収等による国税並びに申告納税方式による消費税等(保税地域からの引取りに係るものにあつては、石油石炭税法(昭和五十三年法律第二十五号)第十七条第三項(引取りに係る原油等についての石油石炭税の納付等)の規定により納付すべき石油石炭税に限る。)、航空機燃料税、電源開発促進税及び印紙税 その災害のやんだ日の属する月の末日 ロ イに掲げる国税以外の国税 その災害のやんだ日 二 その災害のやんだ日以前に課税期間が経過した課税資産の譲渡等に係る消費税でその納期限がその損失を受けた日以後に到来するもののうちその申請の日以前に納付すべき税額の確定したもの 三 予定納税に係る所得税その他政令で定める国税でその納期限がその損失を受けた日以後に到来するもの
対象となる方
下記の3つの要件に該当する方です。
今回の地震では個人事業者の令和5年分所得税及消費税は少なくとも要件に該当します。
地震により自分の財産が相当の損失(全積極財産の価額に占める割合がおおむね20%以上)を受けた場合(通46①本文)
→市役所の被災証明で損失割合が確認できます。
下記3要件を満たす国税であること(通46①一)。
①その損失を受けた日以後一年以内に納期限(源泉所得税自主分については法定納期限)が到来する国税
※「相当な損失」とは、災害による損失の額が納税者の全積極財産の価額に占める割合がおおむね20%以上の場合をいう。
- R6.1.1地震の日(相当な損失を受けた日)
↓
- R6.3納期限(R5年所得税や消費税が該当します)
↓
- R6.12.31損失を受けた日から1年
②災害の病んだ日(源泉所得税等は災害のやんだ日の属する月の末日)以前に納税義務が成立(消費税の場合は課税期間の経過)している国税
※消費税中間分、法人税中間分、所得税予定納税についてはこの要件なし。
※「災害のやんだ日」とは、地震災害がその後引き続き発生する恐れがなくなった日をいう。
- R5.12.31納税義務が成立
申告所得税=暦年終了の時、消費税=課税期間経過の時
法人税=事業年度終了の時
↓ - R6.??災害のやんだ日
③猶予申請前には税額が確定している国税
猶予申請前に税額が確定していないと、何の税金の申請なのかも分からないので、そもそも猶予申請できない。
税額が確定するときとは 申告納税方式の国税(所得税、消費税、法人税)場合 →確定申告書が提出されるとき
- R6.3.1申告書提出
↓
- R6.4.5納税の猶予申請書提出
たとえば・・・
- R5.12.20給与支払日:源泉所得税の納税義務成立と同時に税額確定
→②災害のやんだ日の属する月の末日以前に納税義務が成立している〇
- R6.1.2地震=損失を受けた日
- R6.1.10源泉所得税の法定納期限(給与支払日の翌月10日)
→①損失を受けた日日以後一年以内に納期限が到来〇(源泉所得税の場合は法定納期限)
- R6.1.20(仮定)
R6.1.31災害が止んだ日
災害の病んだ日の属する月の末日=1/31 - R6.3.31災害がやんだ日の属する月の末日から2か月=猶予申請期限
猶予申請前に税額が確定(R5.12.20)しているのでこの日までに猶予申請可能。
- R7.1.1損失を受けた日以後一年
- R5.12.31暦年終了の時:所得税の納税義務の成立
12月決算法人の事業年度終了の時:法人税の納税義務成立
個人消費税確定分の課税期間(R5.1.1~R5.12.31)終期→②災害のやんだ日以前に納税義務が成立(消費税の場合、課税期間経過)〇
- R6.1.2地震:損失を受けた日
- R6.1.31(仮定)災害がやんだ日
- R6.2.29法人税確定分の申告納期限
→①損失を受けた日日以後一年以内に納期限がある〇
- R6.3.15申告所得税及復興所得税の申告納期限
→①損失を受けた日日以後一年以内に納期限がある〇
- R6.3.31災害がやんだ日から2か月=猶予申請期限
③確定申告書提出時に税額が確定するから、期限内申告前提であれば猶予申請前に税額を確定することが可能で猶予申請が可能〇
- R7.1.1損失を受けた日以後一年
※上記②の要件はありません
- R5.1.2地震:損失を受けた日
- R6.1.31法人税や消費税中間分の申告納期限
- R6.3.31災害がやんだ日
- R6.5.31災害がやんだ日から2か月=猶予申請期限
→③法人税や消費税中間分の確定申告書提出時に税額が確定する(みなし申告の場合も同様)から、期限内申告前提であれば猶予申請前に税額を確定するため猶予申請可能〇
→③所得税予定納税の税額確定は令和6年6月30日であることから、猶予申請前にに税額を確定することが不可能で猶予申請不可能×
- R6.6.30申告所得税及復興所得税予定納税の成立と税額確定
- R6.7.31、R611.30申告所得税及復興所得税の予定納税の納期限
→①損失を受けた日日以後一年以内に納期限がある〇
下記2つの書類を災害のやんだ日から2か月以内に提出すること
① 納税の猶予申請書
国税庁HP、税務署窓口に様式があります。
② 被災証明書
市町村に発行申請することで発行可能。
第四十六条の二 前条第一項の規定による納税の猶予の申請をしようとする者は、同項の災害によりその者がその財産につき相当な損失を受けたことの事実の詳細、当該猶予を受けようとする金額及びその期間その他の政令で定める事項を記載した申請書に、当該事実を証するに足りる書類を添付し、これを税務署長等に提出しなければならない。
猶予期間
納期限から1年以内(源泉所得税の場合には法定納期限から1年以内)
※所得税の予定納税、法人税及び消費税の中間納税分は次の確定申告期限まで。
※自分の財産の損失の割合に応じて、猶予期間が変わります。その基準は下記のとおり(通基通46関係4)。
・ 損失の割合が50%を超える場合
→1年
・ 損失の割合が20%から50%までの場合
→8月
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