国家公務員法に定める守秘義務について考察する

コラム

 国家公務員が退職しても守秘義務遵守の法律に服するので、その法律について調べていたんだけど、詳しく解説している弁護士がいなかったから、調査したので備忘録として記事にする。ここでは俺のような国家公務員退職者がどの程度の発信まで許容されるのかについての考察してみる。

 現職公務員の方もOBの方も、参考にしてほしい。

国家公務員法の守秘義務

 国家公務員は退職後も国家公務員法による守秘義務に服している。

国家公務員法 第百条
 職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。

第百九条 
 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
十二 第百条第一項若しくは第二項又は第百六条の十二第一項の規定に違反して秘密を漏らした者

 また、国税職員は国税通則法にて同様に守秘義務と罰則が定められている。このため国税職員の服務を規定する法律においては国家公務員法は一般法となり、国税通則法が特別法となるから、国税通則法の規定が優先的に適用される。

 こうしてみると、納税者の重要情報を扱う国税職員の守秘義務は、一般の国家公務員より重いことが分かる。このように公務員の種類によっては特別法が存在することがあるから、注意してほしい。

国税通則法 第百二十七条 
 国税に関する調査(不服申立てに係る事件の審理のための調査及び第百三十一条第一項(質問、検査又は領置等)に規定する犯則事件の調査を含む。)若しくは外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律(昭和三十七年法律第百四十四号)若しくは租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の規定に基づいて行う情報の提供のための調査に関する事務又は国税の徴収若しくは同法の規定に基づいて行う相手国等の租税の徴収に関する事務に従事している者又は従事していた者が、これらの事務に関して知ることのできた秘密を漏らし、又は盗用したときは、これを二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

 この2つの法律の言う「秘密」は同じことを指す(大阪高裁s41.2.26)。また、通則法上「盗用」とあるのはおそらく、調査徴収の現場で知りえた経営ノウハウ等の完コピのことと思われる(裁判例がない)。

最判(S52.12.19)

次に守秘義務についての判例を見てみる。

 大阪国税局が長年部外秘としていた所得金額や営業態様に基づく税務調査の着眼資料を現役税務職員が部外者に貸与し、漏洩させたことが守秘義務違反に当たるかが争われた事件がある。

 その中で判例は、国家公務員法上の「秘密」とは、非公知の事項であって、実質的にもそれを秘密として保護するに価すると認められるものをいうと解すべきところ、漏洩させた書類はいずれも当時一般に了知されてはおらず、これを公表すると脱税を誘発するおそれがあるなど申告納税制度の健全な発展を阻害し、税務行政上弊害が生ずるので、「秘密」に該当するとしている。

 要は部外者に一般に知られていない調査の着眼点を書いた文書(所得や業種、従業員数等からの統計による文書)が漏洩してしまうと、調査選定されづらい不正申告が横行して申告納税制度を根幹から崩壊させるおそれがあるので、その情報を国家公務員法上の「秘密」として保護しましょうという話。

 なおこの判例では、国家機関が秘扱の指定をした事項についても、裁判所はその判断に拘束されないとしており、行政機関の秘扱の有無は本件の「秘密」の該当性を左右しないとしている。

ここで挙げられている「秘密」の要件は下記のとおり2つある。

①秘匿の必要性

 その情報が漏洩した場合、国家行政の適正な運営に支障が出るような内容で、その情報を秘匿する必要性があること。

②非公知性

 情報を漏らした当時、世間一般に知られていないこと。

 最判(S53.5.31)

 新聞社に勤務する男性記者が、極秘情報を引き出させるために、親交も愛情もない女性外務事務官を強引にホテルに連れ込み、肉体関係をもった後、依頼を拒み難い心理状態になったのに乗じ、外交に係る秘密文書を持出させ漏洩させたことが、守秘義務違反に当たるかが争われた事件がある。

 その中で判例は、国家公務員法の「秘密」とは非公知の事実であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるもの(最判52.12.19と同様)とした上で、外交交渉の会談内容は、非公知の事実で、これが漏洩すると第三国の不信を招き、当該外交交渉とその将来における外交の効果的遂行が阻害される危険があるから、「秘密」として保護する必要があるとした。

 つまり守秘義務が課せられる「秘密」とは、最判52.12.19と同様、非公知の事実秘匿の必要性が高い実質秘であるとしている。

他裁判例

 ・大阪地裁H21.5.21
  刑務官が他の刑務官の住所が乗っているメモを受刑者に見せ、これを漏洩させた事例(有罪)

 ・大阪高裁s41.2.26
  郵便局員が名宛人の郵便物から住所、氏名、電話番号を紙片に書き写し漏洩させた事例(有罪)

人事院

 人事院HPでは下記のように記載がある(人事院HP>服務・懲戒制度>5.秘密を守る義務)。概ね判例に沿った内容となっている。

 外交交渉、入札情報、個人情報など外部に漏れると国や個人の利益を著しく侵害する事項や事前に内容を漏らすことが行政の遂行を阻害すること等は、秘密にしなければなりません。
 「秘密」とは非公知の事実であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものです。
 「職務上知ることのできた秘密」とは、職員が職務に関連して知りえたすべての秘密を言います。したがって、例えば税務署の職員が税務調査によって偶然知りえた納税者の仮定的事情や、労働基準監督署の職員が調査の過程で偶然知りえた調査対象企業の経営状況なども「職務上知ることのできた秘密」に含まれます。

 (守秘義務違反の例)
  行政処分の検討状況を事業者に漏えいした           →停職処分

結論

 国家公務員法100条1項に規定する「職務上知りえた秘密」とは、職員が職務に関連して知りえたすべての実質秘(①非知公性+②秘匿の必要性を実質的に具備している情報)を指している。

 そして②の秘匿の必要性があるとされる情報の程度は、判例や裁判例から、漏洩した場合に行政の運営や個人の利益を著しく阻害するような情報に限定されると考えられるから、国家行政の運営や利益に多少しか悪影響がない情報や、認知度は低いが既に大衆に公表されている情報は国家公務員法に定める「秘密」該当しないと考える。

このため、許容される発信として下記のようなものが考えられる。

  • 勤務の個人的感想
  • 行政官庁の法律の解釈
  • 行政官庁への一意見
  • 不特定多数の国民に対する意見、感想、不満 等

最後に

 国家公務員法の「秘密」の具体例については、ネット上ではあまり挙げられていないが、「秘密」についての考え方については、かなり詳しく考察できたと思う。

 ただ上記に記載したのは俺個人の考察なので、秘密に近い内容を今後発信する人は、あくまで自己責任で発信されたい。

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